2004年1月の気付きと工夫の記録です。
稽古日記 1月4日 車椅子上での体幹強化。手を膝よりも下にした状態からは起きあがれない。手を膝に置いた状態での前屈を繰り返すことにした。下腹に力が入る。甲野氏が書いていた丹田強化法との関連性が想像される。そうであれば、基礎体力の向上にも効果がある。いずれにしても立ち上がり時に使う動きである。 1月6日 OTのI先生にいつものようにトランスして頂いた。I先生は正面から私の後頭部に覆い被さる。プロレスのフロントスープレックスのように。私は前屈している。脚は曲がっている。I先生が上体を引き上げようと力を込める。しかし、ここで私の脚が伸びない。前屈の状態で脚を伸ばせれば、彼女の人力トランスも夢ではないのに。 椅子からの立ち上がりは、こんにちわと言いながらやると上手くいくらしい。運動を分解すると、重心である尻を踵の上方にずらし、前屈し、脚を伸ばしあるいは伸ばしながら、上体を引き起こす、ということになろう。前屈しての脚伸ばしだけができない。車椅子上でのスクワットをやらねば。 1月8日 O部長がこんな話をされた。「昔、山に登っていた。重い荷物を背負って、先輩とベースキャンプにたどり着いた。肩のベルトが神経を長時間圧迫したからか、右腕が麻痺していた。尻も拭けない状態だった。それでも次の日にはロッククライミングに挑んだ。岩場を登るということだけを考えて、雑念が無くなったとき、右手は頭上のくぼみをつかむほど自由に動いていた。10時間のロッククライミングの後、ベースキャンプに戻るとき、右手はまた動かなくなっていた。」私は、「なるほど、集中力ですね。」と答えた。麻痺のメカニズムの違いはさておき、集中力は大事ですね。 1月12日 昨日から車椅子上での起き上がりを続けている。昨年末に部屋の真中で同じエクササイズをしていて前転しかけ、怖い思いをしたので、最近はベッドを前にしている。足がベッドの下に入るように、すねがベッドに当たるまで前進している。前屈すれば額がマットレスにあたる。 今日は床に手をついた状態からの起き上がりに成功した。 起きあがりの際の力の入れ方を分析してみた。背筋を使う。頭が上がり、丸まっていた背中が伸びていく。これだけでも起き上がれる。もう一つ、大殿筋を使う。腰を起こすつもりで。頭は下げたまま、背中は丸まったまま起きる。太ももに力を入れて踏ん張ると大殿筋に力を入れやすい。背筋と大殿筋を同時に使えば起き上がりは容易になる。腹に空気を入れて膨らませれば更に楽になるが、筋肉強化のために、これには頼りたくない。息を吐きつつ、背筋と大殿筋で起き上がると、腹筋に力が入っているのがわかる。 起き上がりで体幹に力をいれると腕もガチガチになる。ハーネスを使って立位保持をしている時と同様。「腕は腰から、脚は肩からあると思え」というが、これを実感する。手すりや杖を使うためには、体幹以下に力を入れても、肩や腕がリラックスしている状態にする必要がある。 1月13日 ベッド端座位に成功した。安全のためハーネスは付けている。少し前傾してひざに置いた両手で上体を支えるのが基本だが、両手を遊ばせることもできる。背中はかなり丸まっているらしい。 1月18日 休日の訓練のメニューが固定されてきた。午前中60分程車椅子に乗り、手こぎによる上肢の強化と起き上がりによる体幹強化を行う。ベッドに戻り、午後彼女にストレッチをしてもらった後に、パラシュートタイプハーネスを用いた立位保持訓練を30分程行う。もちろん、このほかにも、ベッド上で時間があるときにはいろいろと動かしてはいるが。 車椅子上の起き上がりを数回続けていると、背筋の緊張が高まり、手を膝の上に置いた体勢では何の苦もなく起きあがれる。無意識のうちに上肢が加勢しているのかもしれない。脚の踏ん張りに連動した腰の回転を意識し、強化したいので、背筋を使わないことにする。顎をひいて、背中を丸めたまま起きあがると、これが結構きつい。腰の回転を自覚できるし、下腹にも力が入っている。これが丹田の力というものなのか。腰と腹で起きあがるこのエクササイズは、腹筋強化のためのクランチの戻る動きを90度起こして行っているようなものかもしれない。 ハーネスを用いた立位保持訓練が一人で出来るようになりたい。もちろん、ハーネスの装着やリフターの操作は彼女に頼むしかないが、一度立たせたら、後は立ちっぱなしでも、ハーネス内のスクワットでも一人で続けられるようにしたい。その第一歩がつかまり立ちである。昨年11月の目標として8月に設定したつかまり立ちに今日成功した。手すりも平行棒もなく、利用可能なものは椅子の背しか思い当たらない。ハーネスにかなり頼った状態で椅子の後ろに立つ。スタンスを決め、両手を椅子の背に乗せて、ハーネスを緩める。つかまり立ちをしている。ハーネスのベルトが緩んで遊んでいることからもこれは確認できる。ただ、椅子にかなりの体重を乗せている。上体も前傾している。上体の体重を下肢に乗せるために腰を起こすと、全身が後傾しようとする。椅子の背も両手に引かれ、動き出さないように彼女が座っていないといけない始末。課題は多い。 1月25日 さえない週末だった。土曜日は何のエクササイズもせず、鍼灸治療のみ。日曜日は午前中胃が痛いことを理由に動かず、午後のハーネスを使った立位訓練も気に入らない結果となった。大体、胃が痛いくらいで休む自分が情けない。久しぶりに気持ちが萎えている。昨年を振り返れば、4月、7月、10月にこんな時期があったように思う。今回も乗り切れるはずだ。 外部情報 1月8日 胴体力トレーニングについて検索してみた。いくつかヒットしたが、気にとまったのは; 「和をもって尊しとなす」というが、この「和」というのは、「つながり(Linkage)」を意味する。つまり調和とは、「調整されたつながり」のことである。ヨーガという言葉には幾つかの意味がある。ジバナンダ・ゴーシュ氏によれば、「結ぶ」「結び付ける」「集中する」「合一」「親しい交わり」などだ。私は、ヨーガをまず「心と体の調和」と位置付けている。一方、私が見せていただいた胴体力の修練は、「意志と動きの調和」を基本とされているようだった。これは、静と動の対比において考察すると理解しやすいと思われる。調和とは、自然統制されたサーモスタットとバランス機能による無意識的な制御を理想とするが、ヨーガは特に、脳と内分泌腺、神経分泌液の制御に力点を置く。対して、胴体力トレーニングは、大脳の運動野、体性感覚野と平衡器官等から、脊髄を経て運動ニューロンを介し、筋繊維まで繋がる一連のフィードバック回路を自然に調和させる。そして無意識で最善の動きを採る為に、脳と脊髄のニューロンの間に、一連の経路や連結を構築する。基本的な反復修練とその応用を繰り返すことで、意志と動きとの調和が生み出されるようになる。 1月10日 甲野善紀氏の「古武術に学ぶ身体操法 」を読んだ。 「妙の字は若き女の乱れ髪とくにとかれずゆうにゆわれずという歌があって、武術の妙味というものは説くことも言うこともできないと詠んでいる」 「中国武術と日本武術では基本の姿勢が異なるが、座る動作一つとっても姿勢と無関係ではない。中国では椅子の生活だが、日本ではそのまま床に座る。」 「日本には物事のコツ=骨をつかむという表現がある。骨の動きがまずあって、筋肉がその邪魔をしないという考え方もある。まず、骨の動かし方を考える。」 習得したいのは他人を相手にする武術とは少し違う。以前読んだ「武術の新・人間学 」では、数人の力士に押さえ込まれた達人が一気に立ち上がるエピソードがあったが、これは力士が相手をしてくれたからだと思う。脱力した力士を担いで立ち上がる術のようなものを身に付けたい。 1月27日 Teaching the Spinal Cord to Walk (SCIENCE,Vol.279,16JANUARY1998,pp.319-321)を読んだ。なお、SCIENCEの記事の全訳は日本せきずい基金のせきずい損傷関連資料にあるが、オリジナルを読んだ。Anton Wernig of the University of Bonnによるハーネスとトレッドミルを用いた実験の結果や「猫に歩くことを教えれば、猫は歩くことを学ぶ。猫に立つことを教えれば、立つことを学ぶが、歩くことはできない。」というReggie Edgerton of the University of Californiaの発言が載っている記事だ。気になったのはp321。Wernigが1995年のthe European Journal of Neuroscienceに発表した研究。3から20週間のトレッドミルによる訓練を受けた部分麻痺の患者と従来の療法を受けた患者を比較している。被験者のうち歩けるようになった患者の数は、最近受傷した患者では、トレッドミル訓練が36人中33人、従来療法が24人中12人、古い患者では、それぞれ33人中25人、14人中1人とのこと。これをもってトレッドミル訓練の優位性を論じていると思われるが、それは構わない。ここで言う従来療法の詳細が知りたい。 1月28日 Exercise may speed spinal cord repair (nature science update, 10 November 2003)を読んだ。記事によれば、運動が脊損ネズミの回復を早める。損傷した神経細胞を通じさせるのを助ける物質の分泌が規則正しい走行により促進される。人間と同様、不完全麻痺のネズミの中には歩きを取り戻すものもいる。回し車を与えられれば、その回復期間は半減する。人間も自分の脚で立って運動すべきであり、座ることを教えてきたこれまでの療法は見直すべきである。走らされた脊損ネズミは不活発なネズミに比べて3倍のBDNF―細胞の生存を促す分子―を有している。また、synapsin1―神経の化学伝達物質分泌を促す蛋白質―も高レベルで有しているとのこと。回し車で走れるようにするにはどうすればよいか。そこが問題。
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